大判例

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東京高等裁判所 平成2年(う)636号 判決

被告人 谷川亙 外一名

〔抄 録〕

銃砲刀剣類所持等取締法三一条二項にいう「営利の目的」とは、自己が自ら財産上の利益を得る目的のほか、第三者にこれを得させることを動機・目的とする場合も含まれるものと解すべきところ(最高裁昭和五五年(あ)第一五五八号同五七年六月二八日第一小法廷決定・刑集三六巻五号六八一頁)、同項が密輸入の構成要件的故意のほかに目的犯の成立要件ないし刑の加重要件として「営利の目的」を規定していることからすると、第三者に財産上の利益を得させることをその動機・目的とする場合、単にその第三者が営利の目的を有していることを知って加担しただけでは足りず(最高裁昭和四一年(あ)第一六五一号同四二年三月七日第三小法廷判決・刑集二一巻二号四一七頁)、その第三者に財産上の利益を得させることが、本人の犯行加担の動機・目的であることを要するものと解すべきである。

これを本件についてみると、関係各証拠によると、まず、被告人千惠子については、同被告人は、本件以前に行われた伊原の一連の密輸入に対しても、前記のとおり積極的に加担し、殊に、伊原が昭和六三年一月に密輸入したけん銃一二丁等については、同人が被告人千惠子からの借金の返済に充てるために密輸入したものであることを知りながら、これらのけん銃を早川に処分換金させて伊原の自己に対する借金の返済に充当していたことが認められる上に、本件けん銃等の密輸入についても、同年六月一〇日ころ伊原から大量のけん銃を密輸入する計画を打ち明けられるや、同人が密輸入したけん銃等を本邦内で処分して利益を図ろうとするものであることを知りながら、逡巡する被告人亙に伊原の意向を伝えて暗にその協力方を求め、また伊原の依頼に応じて密輸用の特注のトランク二個を発送するなど、伊原に財産上の利益を得させるために積極的に本件犯行に加担したものということができるのであるから、被告人千惠子については、本件けん銃等の密輸入に関し伊原のために財産上の利益を得させる目的、すなわち営利の目的が存在していたことは明らかであるということができる。これに対し、被告人亙については、関係各証拠を子細に検討してみても、伊原に財産上の利益を得させることを企図し、これを動機・目的として本件密輸入に加担したものとは到底認められない。すなわち、同被告人は、前記のとおり、これまでも、伊原の依頼に応じ、約二年余の長きにわたり、前後約九回、伊原が大使館経由で関税を免れ密輸入することによって利益を受けることを知りながらこれに協力してきたものであるが、本件けん銃等の密輸入に際しては、伊原の意図が、これまでとは異なり、一般に輸入それ自体許されない禁制品のけん銃を大量に密輸入し本邦内で売却処分して大儲けしようというものであることから、伊原の右計画への協力に躊躇し、婉曲に断るべく、官儀フォームによる取扱を説明したり、ソウルオリンピックの開催が近いことを引き合いに出して伊原の企図するけん銃の密輸入について終始消極的態度を取り続け、伊原の再三にわたる要請に対しても伊原が承諾し得ないような条件を出して伊原の企図する本件密輸入を牽制すらしていたものであるから、同被告人には自己に財産上の利益を得る目的がなかったことは勿論、伊原に財産上の利益(脱税による利得も含む。)を得させることを企図し、これを犯行加担の動機・目的としたものとは到底認めることができない。もっとも関係各証拠によると、被告人千惠子は、前記のとおり、伊原から、これまでにも高級時計等密輸入品の一部を貰ったことが認められるほか、昭和六三年一月に伊原が密輸入したけん銃一二丁等については、これを処分して伊原に対する自己の貸金の返済に充当していることも認められるが、本件けん銃等の密輸入については、被告人亙に妻である同千惠子のため右のような何らかの財産上の利益を得させることを企図して本件犯行に加担したものと認めるに足りる証拠はない。したがって、被告人亙については、本件けん銃等の密輸入について、その犯行加担の動機・目的に営利の目的があったとはいえない。

(栗原 泉山 神作)

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